マーケティングにおいて最も有名な格言のひとつに「ドリルを買う人が欲しいのは穴である」という言葉があります。
ハーバードビジネススクール教授にして偉大な経済学者であるセオドア・レビット博士が1968年に発表した「マーケティング発想法」という本がその出典です。

もう少し正確に引用すると「人々が欲しいのは1/4インチ・ドリルではない。彼らは1/4インチの穴が欲しいのだ(People don’t want quarter-inch drills. They want quarter-inch holes.)」となります。

Theodore Levitt Plofileレビット教授はこんな人です
画像出典:Markethink

ドリルを買った人は何を求めていたのかというと、ドリルという「製品」ではなく、それによってもたらされる穴という「結果」や「利益」を求めているわけです。
今から50年も前の言葉ですが、いまだに色あせないのはまさにマーケティングの本質を突いているからなのでしょう。
(ちなみに実はこの言葉自体はレビット博士の言葉ではなく、文中でレオ・マックギブナという人の言葉を引用しているそうです)

さきほど「本質」というキーワードをつかいましたが、マーケティングでは顧客の行動の影に隠れている「欲求の本質」を見抜くということが何よりも大事になります。

本質的な欲求を見抜く天才、スティーブ・ジョブズ

「ドリルを買う人が欲しいのは”穴”である」という教えを誰よりも理解し実践した一人が、天才スティーブ・ジョブズだったと思います。

そのことがわかる事例を一つご紹介しましょう。

今から10年くらい前は携帯できる音楽プレイヤーとして、すでに時代はMDプレイヤーからMP3へと移行し、AppleのiPodが人気を集めていた頃だったと記憶しています。
これらのポータブルオーディオプレイヤーを購入した人はMP3やiPodという製品が欲しかったのではなく、その本質は「外出先でも、いつでもどこでも音楽を楽しみたかった」のです。

そのことにいち早く気づき、イノベーション(技術革新)を起こしたのがスティーブ・ジョブズ率いるAppleのiPhoneです。

この革新的な携帯電話はPCと同じようにインターネットが楽しめるだけではなく、音楽業界にもiPodに続いて更なる革命を起こしました。携帯電話なのにiPodと同じように音楽を楽しむことが可能になっていたのです。

iPhoneの普及に伴い、iPhoneで音楽を楽しむという人も増えていきました。当時の私もそのうちの一人です。iPhoneの登場によって既存のオーディオプレイヤーのライバル製品は携帯電話になりました。

人々の欲求は「外出先でも、いつでもどこでも音楽を楽しみたい」であり、決して「音楽プレーヤーを持ち歩きたい」ではありません。スティーブ・ジョブズはそのことに気づいていたのでしょう。
人々の欲求は音楽プレイヤーでなくても、みんながいつも持ち歩いているもの、携帯電話で代替できると考えたのです。
そして現在ではスマホで音楽を楽しむのがあたり前の時代となっていることはみなさんご存じのとおりです。

トヨタ式「なぜなぜ分析」で本質を見定める

では、この「欲求の本質」はどのように見つけることができるのでしょうか。

トヨタ自動車工業元副社長でトヨタ生産方式の生みの親と言われている大野耐一氏の名言に「なぜを5回繰り返せ」という言葉があります。

トラブルが起きたときに「なぜそれが起きたのか」を繰り返し考えることで隠れていたトラブルの根本的な原因を突き止めることができるという考え方で、トヨタ社員は新入社員のときからこの教えを徹底して叩きこまれるそうです。

ロジカルシンキングやクリティカルシンキングと呼ばれる論理的に物事を考えるためのテクニックとして、この「Why(なぜ)」を繰り返し問う方法は非常に有効であるでしょう。

例えば、あなたの知り合いの女性がいまダイエットをしていたとしましょう。このダイエットという行動の裏にはどのような欲求が隠れているのでしょうか。トヨタ式に5回なぜを繰り返してみましょう。

ダイエットをしている →(なぜ?)あの洋服を着たい →(なぜ?)今度デートする彼に可愛いと思ってもらいたい →(なぜ)彼はお金持ちでイケメンで理想的な男性なので結婚したい →(なぜ)優雅で人から羨ましがられる生活が送りたい →(なぜ)セレブな生活にあこがれている

上記は極端な例ですが、ダイエットをしているという行動から最終的には「セレブへのあこがれ」という欲求を引き出すことができました。

実際には5回もなぜを繰り返すには相当なエネルギーを使いますし、相手の本音を引き出すことは容易ではありません。しかし、行動の陰には必ず理由がありますので日々「なぜ」と考えることは非常に重要です。

表面的な現象に囚われず、隠れた本質が何なのか、普段から「なぜ」を繰り変えすトレーニングがいつか大きな力になると信じています。