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前回のブログではセオドア・レビットの「ドリルを買う人が欲しいのは”穴”である」という有名な格言をもとに、相手の望んでいる本質を見抜くことがマーケティングにとってとても重要であるということを解説しました。

今回はその続きとして、自動車会社フォード・モーターの創設者ヘンリー・フォードとiPodやiPhone、MacbookなどApple製品の生みの親スティーブ・ジョブズという2人の言葉をもとに「本質を見抜く」ということについて、もう少し掘り下げて考えてみましょう。

ヘンリー・フォードはフォード・モーターを創設し、車がまだ一部の富裕層のみの高額商品であった時代に「T型フォード」という一般所得層であっても所有できる車を販売して乗用車の普及、大衆化を促進した偉人として知られています。また、ライン方式というベルトコンベヤーによる大量生産方式を確立し、交通と産業のどちらにも革命を起こしました。

T type Ford1908年型のフォードT型
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ヘンリー・フォードが残したといわれる有名な格言に「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう。」という言葉があります。

T型フォードが普及する以前の当時のアメリカといえば、車が富裕層だけの高級品で、一般大衆の主な移動手段はまだ馬でした。

seven_gun_mansこんなイメージ
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そもそも車というものがどういうものか全然わからないという人に向けて「何がほしい?」と聞いたところで「車がほしい」なんて言葉が出てくるはずもなく、「もっと速い馬が欲しい」と言われるのは、考えてみればあたり前ですね。

マーケティングは顧客が欲しいと望むものを理解するところから始まります。しかし実際のところ「人は自分の欲しいものを本当にはわかっていない」ものなのです。

それでは、このことをよく理解していたもう一人の天才の話に移りましょう。

ビジネスの世界でスティーブ・ジョブズの功績を否定する人はいないでしょう。
数々の革命的なヒット商品を生み出し、世界のマーケット(市場)をも変えたスティーブ・ジョブズは市場調査というものが嫌いだったようです。

スティーブ・ジョブズはこんな言葉を残しています。
“Some people say, give the customers what they want, but that’s not my approach. Our job is to figure out what they’re going to want before they do.”
(ある人たちは「顧客の望むものを与えよ」と言うが、それは私のやり方ではない。私たちの仕事は顧客が望むよりも先に彼らがこれから望むであろうものを理解することなのです)

スティーブ・ジョブズが作ろうとしていたのは「まだ誰も見たことがないもの」です。
iPhoneがない時代にiPhoneのような電話が欲しいと望んだ人がいたでしょうか?

私は決して市場調査を否定しているわけではありません。マーケティングに携わる者として、多くのケースにおいて市場調査は非常に重要なデータや示唆を得ることができるものだと考えています。

ここでお伝えしたいことは、「本人もまだ気づいていないような新しい価値を提供する」ことがマーケティングにおいて非常に重要だということです。

ここで実際に人々に新しい価値を提供することで大ヒットを記録した事例をひとつ紹介します。

手ごろな価格でお洒落なメガネを販売する「JINS」というブランドをみなさんご存じでしょうか。
(今年に社名も旧社名のジェイアイエヌから「ジンズ」に変更しました)

近年、PCのブルーライトをカットしてくれるパソコン用眼鏡「JINS PC」や、花粉症対策用眼鏡「JINS 花粉Cut」が爆発的なヒット商品となりました。CMで観たことがある人も多いと思います。

Jins glasses大ヒットした「JINS 花粉Cut」
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メガネとは元来「目が悪くなったらかけるもの」でした。しかし、PCメガネでは反対に「PCから目を守るためにメガネをかける」という新しい価値を人々に提供しました。
PCによって目が悪くなった後にメガネをかけるのではなく、目が悪くなる前にメガネをかけるというメッセージが、PCやスマホが普及し、一日中スクリーンを見続けている人々の悩みにうまくマッチしたのでしょう。
また、「花粉から守るためにはメガネをかける」というメッセージが花粉症に悩まされている人々に非常に好意的に受け止められました。
JINSが提供した新しい価値によって、ファッションではなく「健康のため」に、それまでメガネをかけていなかった人もメガネをかけるようになりました。一企業の商品が多くの人の生活に新しい行動を与えたのです。

水が欲しいという人に水をあげるだけでは一時的な渇きを癒してあげたに過ぎません。
本人もまだ気づいていない要望に気づくことができたら、きっと一流のマーケティングができるに違いありません。