「いつも見ていました。私と付き合ってください。」

ある日、ハルコさんは突然ふたりの男性から告白されました。
ひとりはいつも同じ電車に乗っていて顔見知りではあったAさん、もうひとりは一度も会った記憶すらないBさん。どちらも年齢も容姿のレベルも同じくらいです。

さて、前々から彼氏がほしいと思っていたハルコさん、どちらの男性と付き合う可能性が高そうでしょうか。

confession

かなり極端な例を出させていただきましたので「いや、どちらもないわー」という現実的な回答はさておき、心理学的にはもともと顔見知りであったAさんの方が可能性としては高いと考えられます。

人は繰り返し接触したヒトやモノに対して、好感を持つようになる」という現象を心理学用語で単純接触効果といいます。
論文を発表したアメリカの心理学者ロバート・ザイアンスの名前をとってザイアンス効果(ザイアンスの法則)とも呼ばれます。(Zajonc 1968)

なぜこのような心理現象が起きるかについては、知覚的流暢性効果という理論によって説明されています。

専門用語なので難しい言葉ですが、知覚的流暢性(ちかくてきりゅうちょうせい)とは、「一度接触したものよりも複数回接触したものの方が頭の中にそれに対する前の記憶が残っている分、脳の中にインプットされやすくなる(専門的には”刺戟が情報処理されやすくなる”)」という人の記憶に関する性質のことです。

知覚(見たり聞いたりした情報)がスッと入ってくるようになる(=流暢になる)ので知覚的流暢性です。

「これ過去に知ってるから覚えやすいわ~、心地いいわ~、え?私…もしかしてこれのこと好きかも??」
というように、情報処理のしやすさを、脳は対象への好意や親しみとして間違って認識(帰属)してしまうため、複数回接触したヒトやモノの方が好まれやすくなるのです。

確かに考えてみると、学生時代っていつも顔を合わせているクラスメートや同じ部活動の生徒同士で恋愛に発展することが多いですよね。
ドラッグストアやスーパーに行って商品を手に取る時も、自分が知っているブランドの商品を選択することの方が多いのではないのでしょうか。
人は自分が知っているものを好む傾向があるようですね。

私たちは日々たくさんの広告に囲まれて生活しています。
どうして企業がただブランドや会社のロゴだけしかない看板に安くないコストをかけて掲載しているのかや、携帯広告会社がなぜあれほどテレビコマーシャルに出稿して露出を高めているのか、これらも単純接触効果によって説明できますね。

前注意処理といって、実は私たちは意識をしていなくても無意識に目に入った情報を記憶しています。
そのため、たとえそのブランドの記憶がない場合でも、接触の多かったブランドを購入の対象に含める傾向があります。
(この前注意処理に訴えかけるのが有名なサブリミナル効果というやつです。実際には学術的な証拠はまだ発見されていないらしいですけど)

単純接触効果(ザイアンス効果)は交流関係や恋愛、マーケティングなど多くの場面で利用することができますね。相手に親しみや好意をもってもらうためにはまずは接触回数を増やすことが重要なのです。

SNSによる投稿で露出を高めたり、LINEやメールなどでメッセージをやりとりするなど、相手との中・長期的なリレーション(関係性)を築いてコミュニケーションを深めていくことで、恋愛にしてもビジネスにしても成功する可能性は高まっていくでしょう。

mere_exposure_effect画像参照:One Marketing
※齊藤勇『対人社会心理学重要研究集(2) 対人魅力と対人欲求の心理』 参考

マーケティング業界では近年「エンゲージメント(Engagement)」という言葉が世界的に注目を集めています。
日本語にはない言葉なので非常に翻訳しづらいのですが、「エンゲージメントリング(婚約指輪)」という言葉はすでに普及しているようにエンゲージメントには「婚約」という意味があり、より本質的には「深い関わり合いや結びつきをもっている状態」のことを意味しています。

顧客や相手とのエンゲージメントを築くことがマーケティングの役割であり使命です。
企業が広告を掲載したりメールを送ったりしている背景には、ただの情報発信や認知獲得と共に、接触回数を増やしてブランドに対する親しみや好意を得たいという意味があったのですね。