世界三大マーケッターのひとり、ノースウェスタン大学のフィリップ・コトラー教授は著書『コトラー8つの成長戦略』の中で、すべての企業は現在作っているモノを売るための”戦術的”なマーケティング部門と、今から3年後に顧客は一体何を欲しているのかを考え将来に対して準備する”戦略的”なマーケティング部門の2つのマーケティング部門が必要であると言っています。

マーケターには今すでにあるものを売るという能力でけではなく、今後売れるものを考える能力、つまりは未来を予測する力も求められるわけですね。
だからこそ、最新の情報や世の中の動きに対してマーケターは敏感でなければならないのです。

さて、本日は未来予測のひとつとして、社会を動かしている「お金」というものに関して少し考えてみたいと思います。

わたしたちの生活から現金はなくなるのか?

結論からいえば、現金を使う回数は今後確実に減っていくでしょう。

ある報道によると、世界の「キャッシュレス化が進んでいる国トップ10」は、1位から順にカナダ、スウェーデン、英国、フランス、米国、中国、オーストラリア、ドイツ、日本、ロシアであるようです。

筆者は10年ほど前にカナダに住んでいたことがあるのですが、カナダが世界で最もキャッシュレス化が進んでいるということはまったく知らず少し意外でした。

ヨーロッパの中で最もキャシュレス化が進んでいると言われているスウェーデンでは「Swish(スウィッシュ)」というスマホのモバイル決済アプリが広く国民に浸透していて、2012年のサービス開始から5年で今や国民の半数以上が「Swish」を利用しています。

「Swish」はスウェーデンの6つの主要銀行が共同開発した決済システムです。
個々の銀行が独自で開発したシステムであればこれほど広がることはなかったでしょう。

スウェーデンでこれほど広く普及したのは、ある一部でしか使えないというような不便を解消し、国家レベルで戦略的に取り組んだ結果と考えられます。
すでに現金お断りのお店も多くあるらしく、店で現金が使えない→顧客はSwishに加入というループによって、今後さらにキャッシュレス化が加速していくことでしょう。

アジアでは中国で急速にキャッシュレス化が進んでいるとニュースで盛んに報じられていますね。

中国のキャッシュレス化を牽引しているのはeコマース最大手アリババのモバイル決済アプリ「支付宝(アリペイ)」です。

アリババは、現在会長であるジャック・マー氏によって創業され一代でAppleやMicrosoftなどに並ぶほどの世界的な大企業にまで成長した会社です。

Jack-Maアリババ創業者で会長のジャック・マー氏
画像参照:Live Trading News

アリペイを追いかけている存在として、中国では9億人が利用している「WeChat」という日本で言うところのLINEにあたるチャットサービスが提供するWeChat Payment(微信支付)があります。

2017年7月に発表された中国ネットワーク・インフォメーション・センターの報告書『中国インターネット発展状況統計報告』によると、中国のモバイル決済ユーザー数は5億185万人。
モバイルネットユーザーの実に69.4%がモバイル決済を利用しています。大都市圏に限れば更に高い比率になることが予想されます。

中国では偽札が多く現金に対する信用度が低いということも急速な普及を後押ししたと言われています。
デジタル決済は現金を持ち歩かなくても良いため、お店側も消費者も強盗被害に合う可能性も減るので治安の良くない地域ほど需要は高くありそうです。

日本国内でも中国人観光客も多い銀座では、松坂屋やプランタン銀座などの大手百貨店がすでにアリペイやWeChatのモバイル決済サービスにも対応しているようですね。

現金を使わない「キャッシュレス化」は世界の流れであり、日本においてもこの潮流は変わりません。
日本のキャッシュレス決済比率は現在18%ですが経済産業省は今後10年間(2027年6月まで)でこの比率を4割まで増やすという目標を掲げています。

【参考】
キャッシュレス決済比率、10年で40%に 政府が端末導入支援 
(日本経済新聞 電子版)
PDF キャッシュレスの現状と推進(経済産業省)

現在はSuicaやApple Payなどのモバイル決済に対応しているお店も国内でどんどん増えてきていますね。

私も両方利用していますが、モバイル決済に対応しているところでは基本そちらを利用するので現金をあまり使わなくなってきました。
小銭を持ち歩く必要もなくなり、お釣りのやり取りや銀行で預金を下ろす手間もなくなるので大変便利です。最近では現金しか使えないお店に苛立ちを覚えるほどです。もう現金だけの頃には戻れませんね。

キャズム(溝)を超えた日本市場

1962年に米・スタンフォード大学の社会学者、エベレット・M・ ロジャース教授が提唱した、製品や新サービスが市場に浸透する過程を5つのグループに分類した理論、通称「イノベーター理論」というものがあります。

※イノベーター理論について詳しく知りたい方は以下の記事を参照ください
【イノベーター理論とキャズム】新しい商品やサービスはどのように世の中に普及するのか

 innovator_and_chasm
画像参照:ビズハック

アメリカのマーケティング・コンサルタントのジェフリー・A・ムーアは新しいものに敏感なイノベーターやアーリーアダプターから世間一般(=多数派を意味するマジョリティ)に普及するまでの間には容易には超えられない「キャズム」と呼ばれる深い溝があることを提唱しました。

マーケティングの世界では、新しい製品や新サービスがメインストリーム市場である一般層に浸透するかしないかの分かれ道として、イノベーターとアーリーアダプターの割合を足した普及率16.0%のラインが重要だと言われています。

日本のキャッシュレス決済比率は現在18%なので、まさに前述のキャズムを超えて初期多数派であるアーリー・マジョリティにまで浸透してきている段階と考えられますね。
つまりこれから国内におけるキャッシュレス決済はより世間一般層へ一気に加速していくこととなりますが、慎重派であるアーリー・マジョリティやレイト・マジョリティにも広めていくためには、これまでの「革新的」や「新しい」技術から、誰にとっても「安心」で「使いやすい」ものへとイメージから変えていく必要があります。

スウェーデンの「Swish」や中国の「アリペイ」など、成功したサービスの影には国家レベルの強い後押しがあったからだと言われています。
日本国内のキャッシュレスが進むかどうかも、政府が積極的な政策の後押しをできるかどうかが重要となってくるでしょう。

キャッシュレス化について抵抗がある人もいるでしょう。
しかし、お金というものはそもそもが現物交換で発生する不便を解消するために生まれた「信用を何か別の形に置き換えたもの」なので歴史的にも貝殻⇒貨幣⇒紙幣とかたちや形式を変えてきたものです。そのため、本質的には貨幣や紙幣でなくても良いというのが個人的な私の見解です。

Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた用語であるフィンテック(Fintech)に関連するサービスや業界もここ数年大きな盛り上がりをみせていますので、今後も注視してみていきたいところです。